雲ひとつない日のことだった。夕まぐれを目がけて、電車に揺られていた。
駅を出ると、ベンチに座っているサラリーマン。学生。みんな、こころなしか遠くを眺めているような気がする。
「宿舎が宇治のほうにあって。そこに住んでた。黄檗のほう、自衛隊のちかくのとこで––」
かつて、おおきな池があったという、そのうえを歩いた。竹薮のなかにひっそりと佇む、古墳。
踏切のおおい町。茶畑を横目に、歩いていく。
住居の断片を、気がつけば探している。ここのところ、ずっと。
まもなく日が暮れていく。すこし未来には、ここになにが建つのだろう。
四角い発光体が、眼裏まで届いた。行き交う人々は、どこまで運ばれていくのだろう。きょう、なにがあって、なにに疲れて、どうしてそんな遠い目をしているのだろう。粒立つ足元のコンクリートは、きっとつめたいだけではないはず。これだって、いつかのだれかによるもの。ひとがつくった、つくってきたもののうえに立っている。空間に、包まれている。
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