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re-port#5 東福寺



駅を降りると、スクーターが行き交っていた。その隙間から、学生服の人々が笑ったり、暗い顔したりして歩いているのが見えた。



「高校は、日吉ヶ丘って東福寺にあるんですけど––」



まあるく曲がった坂道を、登っていく。



右耳と左耳で、ちがう質の音を聴きながら。左耳には、学校での忙しい時間が流れているようだった。



落ち葉のかんじと、まだ樹々に色づく葉に、現在と過去をおもった。



ふと目をやると、蛇口が見えた。ぼくはあの蛇口から流れる水に、触れたことがない。なのにどうしてだろう、どうしてか、あのころをかんじて、ざわついた。あの教室には、もう戻りたくなかった。かといって、家に帰ったって、なにもやることがない。時間が無限にあって、ありすぎるから、そのことが不安だった、あのころ。



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