MUM & GYPSY 10th anniversary year

© 2017 MUM & GYPSY

MUM&GYPSY 10th anniversary year

マームと誰かさん

「ぬいぐるみたちがなんだか変だよと囁いている引っ越しの夜」

穂村弘×マームとジプシー×名久井直子

書籍出版記念座談会 

 

―「ZINEを作るつもりが、本になっちゃいました」(名久井)

 

藤田:ZINEが出来た!

名久井:ZINEを作るつもりが、本になっちゃいました。

藤田:本が出来ました! 名久井さん、本当にお疲れ様でした。

 

名久井:お疲れ様でした。今はもう出来てるからさみしくて。私の作業は終わってしまったみたいな。あとはみんなよろしく! みたいな気持ちになってる。

青柳:ふー。

名久井:作りながら考えていたことがあって、演劇を観に行って、よく戯曲集が売ってるよね。藤田くんの『塩ふる世界。〜』もそうだけど。それをその場で買って、帰って読み返すという経験が私にはあんまりなくて。たまに戯曲を買うこともあるけど、正直、直接生で観てない舞台に関しては分からないじゃない。ト書きで説明はあるけれど、本当に置いてある椅子の形までは分からない。そういうのがあって、私は戯曲というのに取っつきにくい印象を持っていたのね。でも、この本はそれとは全然違くって、本を作っている時に稽古場での作業と同時並走しているから、舞台を作った”記録”としてのものだけでは全然ない。不思議な作業をしているなと思っていました。

 

藤田:そうですね。いわゆる公演のパンフレットとも違うし、演劇を観にきた人がこういう形でものとして持って帰ることが出来るのを、僕も見たことがない。この本は、何なんだろうね。

 

名久井:何なんでしょうね。あとあと、ほぼ穂村家の1冊になったね。

 

藤田:穂村家の歴史。

名久井:穂村さん、どうですか? 本になってしまいましたが。

 

穂村:すごいいいですよね、これ。手書き文字があったり、60年前の写真があったり。間取り図があったり……。

 

青柳:間取り図!

藤田:間取り図は穂村さんの手書きですよね。

名久井:特に本の中では言及してないけど、穂村さんとやぎ(青柳)のメールのやりとり以外の写真は全部、穂村さんのお父さんのアルバムにあった写真なんですよね。

 

藤田:お父さん見たら、どう思うかな?

 

青柳:喜ぶ?

 

穂村:びっくりするんじゃないかな。こんな形で。

 

藤田:穂村さんとお父さんの対談も載ってたり。

 

名久井:そうそう。親子対談って珍しいよね。

 

藤田:確かに。どういう気持ちなんですかね?

 

穂村:うーん。父親の元カノのブリギッテとか出てくると、沈黙……みたいになるよね。

 

藤田:(笑)

 

青柳:沈黙……。

 

穂村:どう反応していいか、よく分からなくなる。

 

名久井:こういうことって、こんな機会がなかったら今まで聞くことがなかったんですか?

 

穂村:聞かないし、言わないでしょ!(笑)

 

名久井:「俺の元カノは~」みたいな。

 

藤田:最初、お父さんが言い淀んでましたもんね。あの時、いきなり不思議な話をし始めたなと思ったんですよ。最初から、綺麗な子だろう?とか写っている女の子を指差して言ってきたんだけど、それに含みを感じてました。それで誰かが突っ込んだんだよね。そしたら、すぐに白状し始めて(笑)

 

名久井:息子としては微妙だよね。

 

穂村:うーん。なんかやっぱり子供にとって親は親でしかないから、父の青春とか見ると、あったんだ青春、みたいな感じだよね。もはや彼は86歳とかだから、どちらかというとホッとする感じが大きい気がした。一生家族のためにただ働いていただけじゃなくて、彼にも青春時代や青年時代があって、むしろエンジョイしすぎぐらいだったみたいだし。

 

青柳:誰よりもエンジョイしてるもんね。楽しんでる。

 

名久井:写真もすごかったもんね。楽しそうな写真が、この本には載せきれないぐらい本当にたくさんあった。

 

藤田:お父さんに話を聞いて、本当に青春だったんだろうなと初めてお会いする僕でも分かるぐらいのテンションで話してくれたよね。

 

名久井:お見合い写真まで公表しちゃってね。すごいことになりましたよ。

 

青柳:ねー。

穂村:アルバムの中で、一つ一つの写真に寄せてある母のコメントとかも恥ずかしいよね。

 

藤田:昔のアルバムとかにこういうのよくありますよね。写真の横に手書きでキャプションというか、その時の気持ちが一言添えられている。

 

穂村:「空の青さも松のみどりもすべて美しく見えました」とか。

 

名久井:「この感激を忘れまいと……」

 

穂村:もうちょっと僕が若かったら気持ち悪いという感じはあるかもしれないけど。

 

名久井:今はもう大丈夫?

 

穂村:もう、母は亡くなってるからね。

 

名久井:いい思い出、みたいな感じ?

 

穂村:そうだね。

 

名久井:かわいい穂村さんの写真も使ってますね。

 

青柳:これ、かわいい。

 

穂村:雪だるま作ってるね。自分より大きい。

 

名久井:本の中では特に言ってないから、本を読んだ人も穂村さんの小さい時だって分からないかもね。

 

青柳:でもこの浦島太郎の写真は分かるよ。

 

穂村:僕のってだけじゃなくて、名久井さんのラインマーカーズの時のメモが入っていたり、やぎの偽文字があったり。

 

青柳:自分の文字が残るのが嫌だから、ダミー文字で穂村さん宛の手紙を書いた。

 

穂村:この本の中には、そういう色んな要素がいっぱいあって。写真についても、現在のビビットなカラーと昔の白黒の他に、なんとも言えない褪せたカラーの写真があったりして、そういうのが意外と訴えかけてくる。

 

藤田:穂村さんがお父さんの青春時代に触れて思ったことって、僕の年齢だとまだちょっと分からないかも。僕も父と母が口喧嘩してる時に出てきた登場人物がいて、本当かどうかは分からないけど、母が「あの子のこと好きだったでしょ」とか言ったことがあって、それでその時、父が言い澱んだみたいな。そういう記憶が残っていて、その人物に直接会う機会があったんだけど、その時僕も挙動不審になった。何というか、息子に戻る感じがあった。ふざけてられないというか……。

 

穂村:つまり、その人とくっついたら、自分はそのパラレルワールドで存在してないということをどこかで感じるんだろうね。面白がってる部分もあるんだけど、でもその反面、ここでブリギッテと父が結婚していたら僕いないし……みたいな。

 

青柳:ハーフの穂村さん……。

 

穂村:そして、ハーフの誰かが、どこかにいるという。

 

名久井:そういう恐怖がどこかでよぎるから、親の元カレとか元カノとかはざわっとするのかな。

 

穂村:そうだと思うよ。あと、うちは一切恋愛みたいなことを匂わさなかったから、家庭での父と母しか知らなかった。僕が前、春日武彦先生という精神科医の先生と対談本を出した時、お父さんが浮気をして、お母さんがお父さんのネクタイを細切りにしているシーンを見たと言ってたけど、それってすごいトラウマ感あると思うんだよね。エピソードとして誰が聞いても怖い話だけど、でも何より、そのことで家庭の中での両親像や自分の立場が揺らぐ恐怖があるよね。

 

藤田:つまり、子供からしたら、家庭の中の世界だけを見ていたはずだが、おのずと、二人の外の世界を感じてしまうということですよね。

 

穂村:そう。そういう外の世界での姿をうちは完全にシャットアウトしてた。父親は、本の中にもあるけど現場監督みたいなことをしていた人で、現場には荒くれ男がいっぱいいて、前科がある人とかも流れてきたりしていたらしくて、そういう人たちをどうコントロールしていたかというのは家族は知らなかったんだけど、寝言でめちゃくちゃ怒鳴るわけ。でも、自分たちが知っている父はそういう所を一切見せないから、母がそれにすごい怯えて。お父さんは本当は恐ろしい人なんじゃないかって。だから、ナチス・ドイツの短剣を父がドイツから日本に持って帰ってきた時も、母はそれで自分が刺されてしまうみたいな不安があったらしくて、わざわざ警察に持って行って刃を切ってもらったこともあった。今思えば、そういう面を一切家族に見せなかったって、むしろ感謝してしかるべきことじゃんと思うよね。短剣も切らなきゃよかったと思うし。

 

藤田:確か、お家にはあんまり帰ってきてなかったと言ってましたよね?

 

穂村:そう。現場にいるから。

 

藤田:たまに帰ってきて、そうやって寝言を言ってたんだ(笑)

 

—「この中には今回の作品で通ってきた言葉が全部詰まっていると思う。」(藤田)

 

名久井:そういえば、本の中にもある穂村さんとやぎの手紙のやりとりって舞台に出てくるの?

 

藤田:穂村さんの手紙がやぎに届いているという設定にしたいと今は思ってる。メールや手紙で二人にやりとりしてもらって、作りながら気づいたんだけど、やぎが穂村さんに送った手紙はやぎの手元には残らないよなと思って。だから、やぎが穂村さんに送った手紙はこの本の中でしか読めない。

 

名久井:なるほど。この本は、舞台を見てない人も楽しいといいなと思って作りました。

 

藤田:そうだよね。この中には今回の作品で通ってきた言葉が全部詰まっていると思う。実はこの本が全てで、舞台上演に向けて一番よい形にするためにその全部を使うというよりも、引き算をしていくような作業を稽古場ではしている感じです。

 

名久井:そうだよね。対談とかも本の方がもりっと入ってるしね。その感じがこれからどうなるか、まだ私たちは全貌が見えてないけど、楽しみだね。

 

藤田:そうだよね。

 

名久井:毎回本を作るようになっちゃうかもね。

 

穂村:マーム出版とかそのうちにね。

 

藤田:そのうち出版社を立ち上げるか。

 

名久井:だんだん、シェフとか色んな職業を巻き込んで。

 

穂村:リストランテ・マームみたいなね。

 

名久井:無意識に出かけた場所が、ここもマームだったんだ!みたいな。

 

藤田:そういえば、やぎとかは、母のそういう面とか、どうなの?

 

青柳:やぎの母と名久井さんの母はちょっと似てるっていう話をさっきしたね。

 

名久井:そうだね。破天荒系の母親っていうね。

 

青柳:今日も、私が生まれて初めて舞台で演じた「エイ」について、聞いてみたんですよ。「保育園の時に私エイやったよね?何喋ってたっけ?」って。そしたら「は?エイって何?エイなんてやってないよ。エイなんてやらないでしょ、普通。」って言われた。

 

名久井:忘れてるんだ。

 

藤田:それ、面白いね。

 

穂村:エイというところが面白いのにね。他の魚とか蟹とかじゃなくて。

 

青柳:うん、エイ!

 

藤田:竜宮城とかなの?

 

青柳:ううん。水族館だよ。

 

穂村:でも、取材の時にやぎの保育連絡帳を見せてもらったけど、それには愛情が感じられるよ。

 

藤田:穂村さんのお母さんの子育て日記もね。

 

名久井:さっき見せてもらったけど、穂村さんの子育て日記、すごかった。

 

穂村:ちなみに僕が育てられてる日記ね。

 

藤田:前回のマームと誰かさんでの穂村さんとの作業よりも、穂村さんへの掘り下げ方が深いというか、とにかく色んな資料も見せてもらったし、取材もたくさんさせてもらいました。

 

名久井:本当に掘り下げたと思う!かなりさらけ出しているよね。

 

穂村:やっぱり年齢が大きいと思うよ。父が86歳というのは、かなりギリギリ感がある。父に取材するとしても今しかないという感じがあるよね。こういう機会でもなければ、聞かないでしょ。全てにおいて。

 

名久井:他者がいて、むしろ聞きやすいというのはあるかもしれないですね。

 

穂村:そうだよ。だって、母とか親戚の前で昔彼女いたの?なんて86歳の父に聞いたりしないでしょ。

 

名久井:しない。しない。

 

青柳:じゃあ、二人っきりの時は、ああいうふうに話さないの?

 

穂村:全然ああいう話はしないよ。今しかないと思う気持ちがここ5年前ぐらいからあるから、昔住んでいた家を父と順番に訪れて行くことをしたんだよね。それは、何もないところで話聞くよりもそんなに恥ずかしくないじゃん。家を見に行くわけだから。見に行ったら自然とそこにいた時の話が聞けたし、実は引っ越しは占いが理由だったとか、実は株で大損してたとか、ボロボロと思わぬ話が出てきたよね。

 

藤田:僕たちが話聞いた時も、話が全然止まらなかったもんね。

 

名久井:お父さん、穂村さんより大分人懐っこい感じありますよね。

 

穂村:うん。全然違うよね。タイプが。だって、僕現場監督とか出来ないでしょう。怒鳴りながら人を使うとか。

 

名久井:無理だね。

 

青柳:現場監督!

 

名久井:どこかで反乱が起こされてそう。

 

穂村:胸ぐらを掴まれている自分が想像出来るよ……。

 

名久井:足が浮いているのが見えるよね。

 

穂村:本当だね……。

 

−「この本を読んでいると色んな層の時間に触れているような感じがあるよね。」(穂村)

 

穂村:本の話に戻ると、原稿の段階で読んでここがこうなればいいと思ったことを、一言も名久井さんに伝えてなかったけど、全部そうなってた。

 

名久井:どんなところが?

 

穂村:手書き文字とか、打合わせメモとか、変則的なデータが入っていたほうがいいとか。僕が思っていた以上にたくさん入ってた。

 

名久井:結構日にちがなくて……追いつかなかった部分もあるんだけど。

 

藤田:穂村さんが書き下ろしてくださったテキストもかなりあって。

 

青柳:本に載ってないものも書いてくれてるもんね。

 

名久井:なんでそれが2週間前になかったのか……、とか、本に入れたかったねとか、思ったりするのかな。

 

穂村:それはないんじゃないかな。

 

藤田:今書いてくださっているのは、ほとんど上演に向けてのテキストだから。

 

穂村:そうだね。舞台の上演では、僕が何を準備すればよいか、頭で考えてみても分からないのが前回の経験で分かったから。マームでのコラボレーションって、意識レベルのスキル的な共同作業ではなく、無意識の共同作業だと思っていて。藤田くんが考えていることとやぎが考えていることと、メンバー一人一人考えていることが、当然だけどバラバラで、それをどんなに考えてもそれぞれ全然ベクトルが違うから分からないわけだよね。でも、一緒にゲームとか何かしたりご飯食べたりしているうちに、その全体を自分の無意識レベルでなんとなく感受していくところがあって、それを形にする時どうなるのかは、自分でも分からない。それを舞台の場合は藤田くんに投げれば最終的に藤田くんが最善の形にするんであろうと思うし、本の場合は名久井さんに投げれば最終的に最善の形になるんだろうなということがありますね。だから頭ではあんまり考えずに間口を広くして、とにかく無意識レベルでのやりとりをというイメージがありますね。

 

藤田:2014年の時には、穂村さんに書いてもらったものが形になったり、僕が配置した言葉をやぎが発語することによって外に出る、みたいな関係が誰かさんでの穂村さんや名久井さんとの作業だと思っていたんですよね。だけど3年たって、もうちょっと複雑になってきているなと思いますね。あの後、僕は例えばシェイクスピアとか自分じゃない人の言葉を扱うようになってきているし、その点で言えば、シェイクスピアの言葉の出口に僕がなっている。必ずしも二者間だけの話じゃなくて、複雑にリレーしながら言葉を外に出している感じが今はあるのかも。

 

名久井:この本の作り始めは、ZINEという言葉を使っていたんだけど、ZINEになぜだか異様にならなくて、どっちかと言ったら本になったという感覚があった。その定義は私のイメージだけでZINEと本という言葉を使っているんだけど。それで、Chapter 3.5に入っている2014年の時にやぎが発語した私自身の言葉に今回また改めて本の中で出会って、私は一回性のものよりもずっと残るものにすごい執着があるから、こういう残し方をするんだろうなと気がついた。演劇は一回性のもので、同じ演目でも毎回違うから、本と演劇は全然違うんだと改めて思ったんだよね。私は50年とか残るものを作りたいと思っちゃうからね。本の中には、やぎが舞台上で発語する同じ言葉が入ってるんだけど、出口が違うとこんなにも全然違うものになるんだぁと。

 

藤田:一回性という言葉が出てきたけど、僕の作品って、未来には発掘されないものを作っているという意識が強いんですよ。名久井さんと一緒に作品を作っていると名久井さんが作ったものを何千年も先の未来人が発掘しうるなと思って。僕自身が作るものは土から掘り起こされないけど、名久井さんが手掛けたものだけは化石になって掘り起こされるという不思議な感覚があって、僕の肉体はなくなって、透明人間になるんだけど、着ていた衣服だけ残るみたいな。

 

名久井:化石ね。穂村さんは本をいっぱい作ってると思うけど、本を作るのと演劇を作るのは全然違うよね。

 

穂村:うん。なんかうっとりしちゃうよね。

 

青柳:うっとり?

 

名久井:うん。それもすごい分かる。

 

穂村:さっきも打ち合わせしながら、変な幸福感みたいなものを感じたよ。

 

青柳:なんで?

 

藤田:穂村さん見てて、全然感じなかったけど。

 

名久井:外に出てないんだね。

 

青柳:全然分かんないよ。

 

穂村:僕は、マームにお歳暮送ろうかと思うくらいだよ。

 

藤田・青柳:なんで、なんで?(笑)

 

穂村:仲間に入れてくれてありがとう。みたいな。

 

名久井:ありがとうの気持ちはあるよね。それはすごい私もあります。

 

穂村:名久井さんもそうなの?名久井さんはありがとうって言われる方じゃない。

 

藤田:確かに。

 

青柳:それって、残らないものの仲間入りしたことに対してってこと?

 

名久井:全然違う触覚みたいなことを教えてくれるみたいな。それはありがたいことですよね。

 

穂村:そう、僕の場合はさっき言ったみたいに無意識の領域でのコラボレーションということなんだけど、それは本当に稀有な体験だよね。絵本とかでのコラボは今までもあるけれども、でもやっぱりそれとは全然違うよね。最初から一人一人のスキルをシャッフルするみたいなことで、こういうゼロから作っていく時に無意識が混ざっていくみたいな感覚は他では体験できないよね。

 

名久井:穂村さんも私も体験できないことを体験させてもらっているんだけど、逆に私たちがいつも使っている筋肉でする仕事は、演劇側からすると逆に異物感みたいなものがあると思うから、それが多分いい感じに混ざって演劇としてまとまっているということがこのシリーズの良いところだろうなとすごく思う。

 

穂村:例えば、絵本を作るとして「忍び込んだ忍者が侍に取り囲まれてしまいました。」「あ、危ない!」みたいなことを絵がない段階で僕が言葉で書くじゃん。それを見た画家さんは忍者が侍に取り囲まれている絵を書くよね。そうすると絵本の中で言葉と絵をくっつけた時には、絵で忍者が取り囲まれたことはもう描かれている訳だから、言葉としては「あ、危ない!」だけで済んじゃうんだよ。でも最初から「あ、危ない!」だけではその絵は生まれないみたいな。そういう奇妙な錯綜感があるんだよね。これはすごく分かりやすい例え単純な例だけど。藤田くんがなんて言ったんだっけな、センチメンタルにと言ったのか、エモくすると言ったのかは忘れたけど「それは僕がやりますから」と言った。僕が一人で作業する時は自分の段階で作業は終了だから、自分が盛り上げてセンチメンタルなりリリカルなりエモくしないとシンプルにストンと終わっちゃうから、どうしてもそうなるよね。でもマームとの作業って、勝手に自分の感覚で、つまりコラボじゃない時の感覚でエモーショナルにした場合、これは藤田くんにとってはノイズになるかどうか。でも、僕としてはしないわけにはいかないみたいな感じもあって。だから、面白いよね。極端なことを言えば、テキストレベルでは全くエモーショナルじゃないものを、やぎの言い方だけで即物的な台詞がすごくエモーショナルになるみたいなこともあるわけだからね。やぎも含めて、三重の状態で言葉が舞台に置かれるわけだよ。

 

藤田:やぎの身体を通すまで、結構無機質であったほうがいいと思っているここ最近なんだよね。こっちの汗水垂らして書きました感がやぎの手前でもあってしまうと、見えなくなってしまうことも増えてしまうんじゃないかと思ってます。最近は、やぎの身体に入るまでは”作業”みたいな感じの方がいい思ってる。名久井さんは、その辺も分かりつつ実作業が多いじゃない?

 

名久井:そうだね。私はもう、かなり現実と向き合ってる。

 

藤田:その現実感は僕結構好きなんだよね。

 

名久井:本の中の落とし所みたいな感じをすぐ考えてしまうし。穂村さんとやぎのメールのやりとりをこういうふうに置こうとか、扉に藤田くんのテキストを入れようとか、分かりやすく私は編集しちゃうから、出力の仕方が全然違うんだろうね。

 

藤田:やぎに言葉を手渡していくってわけだけど、これって何なんだろうね?やぎはどう思う?

 

名久井:やぎは誰かさんシリーズはどうなんですか?『sheep sleep sharp』の時とかは、物語にはしているけど、現実世界には実在してない人をやるわけでしょ。でも誰かさんシリーズは違うじゃない。穂村さんだって生きてるし。

 

青柳:誰かさんでは、みんな生きているもんね。シェイクスピアをやったり、寺山修司をやったり、藤田くんのオリジナルの物語をやったりしてる時とは全く違う感覚で、「私」がいる感じがする。

 

名久井:やぎがいるんだ。

 

青柳:それが、苦しい。

 

名久井:やぎはやぎでいたくないのに、舞台上にやぎでいざるを得ないという感じなんだね。

 

青柳:「やぎ」という名前が穂村さんの言葉にも書いてあるから、それだけでもう心がはちきれそうになる。

 

藤田:確かに、名指しされまくりだよね。

 

青柳:稽古の時、自分の名前が出ている台詞を勝手に自分の名前だけ省いたら「そこ台詞違うよ?」とか藤田くん言ってくるし。

 

藤田:昨日それでイラッとした。とは言え、穂村さんが書いてくれた詩を舞台に上げる時には僕自分の名前は削除したりしてるんだけど。

 

穂村:やぎだって、全然削除していいよー。

 

青柳:だって、言えって藤田くん言うから。

 

名久井:藤田くんは舞台上に自分の名前は出したくないんだ。

 

藤田:うん。僕はただ、忍者のように。時にはやぎが嫌だと思うことをやらせている人間にもなるし、悪者でもいいんで。

 

青柳:悪魔。

 

藤田:だけど、誰かさんシリーズのやぎは、本当のままでいてほしいと僕も思ってるかも。

 

名久井:本当のやぎ。

 

青柳:だからなのかな、発語するのが苦しいし、台詞が抜けるのも一番遅いんだよね。忘れてしまうことがとてもかなしい。

 

 

  * * * *

 

藤田:でも楽しみだね。この本が人に渡るのは。

名久井:売れるといいね。ZINEを作るつもりが、本になっちゃったね。

 

穂村:でも、僕ZINEという言葉を使ったことがないから、言ってみたいんだよね。かっこいい気がして(笑)

 

青柳:ZINE作りましたって、言いたいの?

 

名久井:ZINEの定義がやっぱり良く分からないんだよね。

 

藤田:僕もこんなに本になると想像してなくて、完成された本というよりも、公演に向けての気持ちとかがとじられているようなイメージだったけど、パンフレット以上のものになる予感はしてた。本ということには結びついてなかった。

 

名久井:作っていて、本になっちゃったんだよねー。

 

穂村:アートブックの感覚だよね。

 

藤田:とても重要な記録だとも思うし。

 

穂村:思考の過程みたいなものを閉じ込めた感じだよね。だから、時間を閉じ込めた感がすごくある。単純に昔の話だけをしているんじゃなくて、子供時代から今までの間取り図とか打ち合わせメモとか手紙とかって全部時間の形を示しているというのが、名久井さんのディレクションでまとめられているので、読んでいると色んな層の時間に触れているような感じがあるよね。

 

藤田:この作品で色んな土地を訪れたいという気持ちが強くて、そうなってくるとこの本も色んなところで販売できるようになるといいなと思ってる。

 

名久井:行ってほしい~。

 

穂村:書名は何にしたんだっけ?

 

名久井:「ぬいぐるみたちがなんだか変だよと囁いている引っ越しの夜」だよ。

 

穂村:そのまんまなのね。

 

名久井:それが、銀の箔で入ってる。

 

藤田:まだ本物は見れてないもんね。

 

名久井:お父さんの写真も表紙に使われているよ。

 

藤田:これもいいよね。なんかクリスマスっぽいというか。

 

青柳:本に載せる写真をいくつかセレクトしたんだけど、この写真が表紙に選ばれると思わなかった。

 

名久井:この写真とタイトルが合わさったらなんか、タイトルに合う感じがしたんだよね。

 

藤田:本当に楽しみだね。今日はこんなところで。4人で話せてよかったです。引き続きどうぞよろしくお願いします!

マームと誰かさん ​穂村弘×マームとジプシー×名久井直子